『予兆 Kōji Enokura Photo Works 1969 – 1994』に掲載される日本語エッセイの
英文翻訳への助成
榎倉康二(1942-1995年)は、1970年代以降の日本の美術界を代表する作家の一人である。1970年に開催された展覧会「第10回日本国際美術展 Tokyo biennale ’70〈人間と物質〉」にはインスタレーション作品を出品し、以降も勢力的に活動を展開していった。榎倉は「もの派」と呼ばれる活動と併せて語られることもしばしばあるが、作家本人はその活動から距離をとり、独自の制作活動を展開し、その作品はインスタレーション、版画、絵画などさまざまである。1978年、1980年には「ヴェネツィア・ビエンナーレ」にも出品している。東京藝術大学で教鞭をとっていた1995年に52歳の若さで急逝した。
今回制作された『予兆 – Kōji Enokura Photo Works 1969 – 1994』は、榎倉康二の写真作品に焦点をあてたものであるが、榎倉は当初、自身のインスタレーション作品を記録するため、カメラを手に取った。その後、作品の記録だけでなく、写真作品を制作するに至る。そうした写真作品は、1972年の「今日の作家’72」展で初めて発表され、以後、亡くなる直前まで制作が続けられた。しかし、写真作品に焦点を当てた展覧会は少なく、図録等の資料も非常に限られている状況である。
1995年に作家が亡くなって以降、写真作品の多くはご家族の元に保管されてきたが、東京パブリッシングハウスでは、写真研究家の大日方欣一氏、美術評論家の熊谷伊佐子氏と共に、2010年より自宅に残された写真の調査を行い、その過程で、これまで3回、榎倉の写真に関する展覧会を開催している。
『予兆 – Kōji Enokura Photo Works 1969 – 1994』には、調査で確認できた写真作品のデータの他、コンタクトプリント、初期の展示記録写真から晩年に制作された写真作品まで、榎倉の写真制作の概観を見通せる内容となっている。特にコンタクトプリントは、作家の作品制作を知る上で大変貴重なものであり、本書では90葉に及ぶ枚数を掲載している。
榎倉康二の作品は、近年海外での関心が非常に高まっている。2013年にはアメリカ、ロサンゼルスのBLUM & POEとニューヨークのMcCaffrey Fine Artで個展が開催され、2014年にはスイスのチューリッヒ等、ヨーロッパを巡回する「ロジカル・エモーション」展に出品された。また2015年にヒューストン美術館で開催された写真展「For a New World to Come: Experiments in Japanese Art and Photography, 1968-1979」へも出品された。こうした展覧会には、写真作品が出品されており、榎倉の写真に対する興味の高まりを表しているといえる。また榎倉の写真作品は、イギリスのTateをはじめとする、ヨーロッパ、アメリカの美術館に収蔵されている。
本書には写真作品の他、調査を行った大日方欣一氏と熊谷伊佐子氏の文章、榎倉本人が過去に発表した文章を日本語と英語の2ヶ国語で掲載している。これまで榎倉関連の資料、特に写真については、英語で表記されたものが非常に少なかった。英訳を併せて掲載する本書は、榎倉康二の写真を日本だけでなく海外に紹介する貴重な資料となるだろう。